不動産を売却する際に、購入希望者から値下げ交渉が入る場合があります。
普段、物を売るということに慣れていない人にとっては、値下げ交渉された際にどのように対応したらよいかわからないという人も多いかと思いのではないでしょうか。
そこで今回は、値下げ交渉をされた際に、値下げに応じるべきか、断るべきかを統計学の知識を用いた対応方法をご紹介します。
値下げ交渉の流れ
まず、不動産売却時に値下げ交渉が入る流れを確認します。
- 購入希望者が、「購入申込書」を記入し、希望する購入金額を決める
- 仲介業者を通じて、購入希望者が希望する購入金額を聞く
- 売主がその金額を受け入れる、断る、もしくは協議を継続する
不動産売却において、値引き交渉が入ることはよくあることです。値引き交渉されたことに対して、気を悪くする必要はありません。
後述しますが、3.で協議を継続することが難しいポイントとなってきます。
値下げ交渉され安く売却してしまう理由
次に購入申し込みが来るか不安
値下げ交渉された際に、多くの売主が価格を下げ、安く売却してしまっています。
その理由で最も多いのが、次に購入申し込みが来るか不安だという点です。
確かに、次に購入申し込みが来るという保証はまったくありません。
しかし、購入希望者は、池の魚のように、釣っていなくなるわけではありません。昨年、住宅購入を検討していた人は、今年は検討していない場合がほとんどです。
交渉金額を基準に捉えてしまう
ほとんどの売主は、不動産売却に慣れていません。300万円値下げ交渉をされると、中間をとって150万なら値下げしても良いか、などと購入希望者の交渉価格を基準に捉えてしまう傾向にあります。
購入希望者も不動産のプロではありませんし、あくまでも希望を言っているだけです。
しかし事実として、購入希望者の希望価格に引っ張られる場合が多くあります。
仲介業者が勧める
値下げ交渉の際にやっかいなのが、売主が依頼している仲介の不動産業者も、値下げを勧める傾向にある点です。
本来、仲介業者は味方であるはずですが、仲介業者は契約が成立しないと1円も収入が入ってこない構造のため、少々安くなったとしても契約が成立するように誘導してきます。
特に両手取引と呼ばれる売主・買主それぞれの仲介業者となっている場合は、他の仲介業者に客を取られないように、なんとかその契約を成立するように勧めます。
秘書問題(37%ルール)による対応方法
秘書問題とは
秘書問題とは、最適停止問題の一種で、統計学で研究されている内容です。
具体的には以下の条件で、どうすれば最適な秘書を選ぶことができるかという問題です。
- 秘書を1人雇いたいとする。
- n人が応募してきている。nという人数は既知である。
- 応募者には順位が付けられ、複数の応募者が同じ順位になることはない(1位からn位まで重複無く順位付けできる)。
- 無作為な順序で1人ずつ面接を行う。次に誰を面接するかは常に同じ確率である。
- 毎回の面接後、その応募者を採用するか否かを即座に決定する。
- その応募者を採用するか否かは、それまで面接した応募者の相対的順位にのみ基づいて決定する。
- 不採用にした応募者を後から採用することはできない。
- このような状況で、最良の応募者を選択することが問題の目的である。
秘書問題 – Wikipedia より引用
上記の問題の結論としましては、
nが十分に大きい数である場合、
- まず全体の37%の応募者をスキップし、
- それ以降に面接した応募者がそれまでより良いと判断したら採用する
37%をスキップすることから、秘書問題は37%ルールと呼ばれることもあります。
例えば、100人の応募者がいる場合、37人目まではどんなに優秀だと感じても、採用しません。
(37人目までの応募者には気の毒な話ですが・・・)
そして、37人目までの応募者の中で最も優秀な人を基準とし、38人目以降で、その優秀な人を以上の人が現れたら採用します。
3人目まではスルー・4人目以降は3人目以上の金額なら売却
不動産売却時の値下げ交渉を受け入れるかどうかにも、通ずる部分があります。
不動産売却の場合も、購入申込みがあれば、その都度、採用・不採用(売却するかしないか)を決める必要があり、かつ不採用とした場合には、後から採用(売却)することはできません。
不動産の売却期間を3か月、週1回内覧申し込みがあると仮定すると、10数回程度は購入希望者が現れることになります。
その中で、購入申込みを行う人が10組いたとすると、秘書問題を利用し、
- まず3組目までの購入希望者をスキップし、
- 4組目以降は、3組目までで最も購入希望額が高かった額以上であれば売却する
以上のような対応となります。
順位最小化問題による対応方法
順位最小化問題とは
秘書問題は、最適解を求める方法でしたが、最適解を求めるあまり、決まらないケースもあります。
そこで、最適でなくてもある程度良い人を採用できる確率を最大限にしたいという場合は、順位最小化問題という手法もあります。
こちらも結論だけですが、
- まず全体の26%の応募者をスキップし、
- それ以降に面接した応募者が、それまでと比べ1番良いと判断したら採用する
- 全体の45%までに決まらなければ、それまでと比べ2番以内と判断したら採用する
- 全体の56%までに決まらなければ、それまでと比べ3番以内と判断したら採用する
- 全体の64%までに決まらなければ、それまでと比べ4番以内と判断したら採用する
- 全体の70%までに決まらなければ、それまでと比べ5番以内と判断したら採用する
以下、どんどん順位を下げていきます。
この方法を使うと、平均して3.87位の人を採用することが可能です。
5人目以降は2番目以上の金額なら売却
さて、この順位最小化問題を不動産売却に当てはめると以下のようになります。
購入申込みを行う人が10組いたとすると、
- まず2組目までの購入希望者をスキップし、
- 3組目は、それまでと比べ1番高い購入希望額なら売却
- 4組目は、それまでと比べ2番目以上に高い購入希望額なら売却
- 5組目は、それまでと比べ3番目以上に高い購入希望額なら売却
- 6組目は、それまでと比べ4番目以上に高い購入希望額なら売却
- 7組目は、それまでと比べ5番目以上に高い購入希望額なら売却
以上のような対応となります。
秘書問題・順位最小化問題を使う場合の注意点
全体数が把握できない
秘書問題・順位最小化問題を使う場合に、注意すべき点もあります。
まず、秘書問題・順位最小化問題は全体数が把握できている場合の理論です。しかし、実際の不動産売却は購入希望者が何人現れるかはわかりません。
特に、不動産を売り急ぐ人にとっては、この方法を使うと期限内に売却できないおそれがあるため、おすすめできません。
不動産売却は急ぐと適切な価格で売ることができませんので、十分に時間を確保できるようにしましょう。
売却期間が延びると経費がかかる場合も
売却期間を十分に確保できても、期間が延びることで、管理費・修繕積立金・固定資産税・都市計画税などの経費がかかることも念頭に置いておく必要があります。
空き家を売却する場合は、今お住まいの家とダブルでこれらの費用がかかりますので、売却期間が延びるデメリットも意識しておく必要があるでしょう。
購入希望額が目標価格なら当然売る
秘書問題・順位最小化問題は、満点の応募者はいないという前提です。一方、不動産売却の場合は、目標価格で購入希望がなされる場合もあります。
購入希望額が目標価格なら、当然売却してください。(当たり前ですが)
売り出し価格を目標価格より少し高めに設定している場合もあるでしょうが、欲を出しすぎてしまうと、その後、その金額以下での購入希望ばかりで、結局売ることができない事態にもなりかねません。
目標金額で交渉をする
秘書問題・順位最小化問題は、応募者の能力は変わらない訳ですが、不動産売却の際は、購入希望額から交渉することができます。
値下げ交渉を断る前に、目標価格で交渉しましょう。
絶対にこの金額でと強気に交渉すると、資金に余裕のある買主は交渉に応じてくれる場合もあります。
仲介業者には作戦を伝えない
仲介業者は本来は見方ですが、この作戦を伝えるのは避けておきましょう。
仲介業者からすると、せっかく購入希望者を連れてきても、最初からスルーするつもりでしたら、案内もしづらいですし、購入希望者にも失礼にあたります。
最後に
最後までご覧いただきありがとうございます。
今回は、不動産売却時に値下げ交渉された場合の対応について、統計学を用いた考え方をご紹介しました。
まとめますと、秘書問題(37%ルール)を用いる場合は、
- まず3組目までの購入希望者をスキップし、
- 4組目以降は、3組目までで最も購入希望額が高かった額以上であれば売却する
順位最小化問題を用いる場合は、
- まず2組目までの購入希望者をスキップし、
- 3組目は、それまでと比べ1番高い購入希望額なら売却
- 4組目は、それまでと比べ2番目以上に高い購入希望額なら売却
- 5組目は、それまでと比べ3番目以上に高い購入希望額なら売却
- 6組目は、それまでと比べ4番目以上に高い購入希望額なら売却
- 7組目は、それまでと比べ5番目以上に高い購入希望額なら売却
となります。
いずれの場合にも、値引きするかしないかの主導権はあなた(売主)です。
私たちは、普段の生活では物を売る機会はほとんどありませんので、慣れないかもしれませんが、落ち着いて値下げ交渉を受けましょう。
この記事がその一助になれば幸いです。
本日もありがとうございました!
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