公営住宅は住宅困窮者のもの?
あなたは、「公営住宅」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。
写真のような階段室型の古い住宅で、家賃が安いというイメージでしょうか?
もしくは、近くに公営住宅がないかたは、何の印象も持たれていないかもしれません
しかし、公営住宅という政策は格差を助長するとても不公平な政策となっています
今回は、住宅政策に携わった経験のある筆者が、公営住宅政策の問題点と解決策について述べたいと思います
公営住宅とは
公営住宅の目的
公営住宅とは、公営住宅法第1条によると、「健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的」にした住宅とのことです
つまり、都道府県や市町村が低所得者向けに整備した住宅だと理解していただければ問題ありません
公営住宅は、戦後、住宅の供給量が不足したことによって建設されました
また、大地震などの際など、一時的に住宅の供給が不足した際に建設される災害公営住宅も、公営住宅にあたります
公営住宅の種類
公営住宅は、「公共が運営している住宅」ですが、様々な種類があり、公営住宅と似て非なる住宅もあります
公営住宅
今までお話しました公営住宅法に基づく住宅で、低所得者向けとなっています
一般的には、都営住宅、県営住宅、市営住宅、町営住宅などと呼ばれています
特別優良賃貸住宅
特優賃(とくゆうちん)と呼ばれ、中所得者向け以上を対象とした住宅です
改良住宅
同和地区内の不良住宅居住者向けの住宅で、劣悪な環境に住んでいた人を救うために建設された住宅のことです
近年では、住民の入れ替わりも進んでおり、公営住宅と同じ扱いとしている自治体もあります
その他
都民住宅、市民住宅など、自治体が独自に設置している住宅もあります
公営住宅政策が的外れな理由
それでは、ここから筆者が現在の公営住宅政策が的外れであると考える理由について解説します
収入のある住宅困窮者は入れない
公営住宅は入居要件として、政令月収額が一定額以下であるという要件が設定されています
政令月収額とは、年間総所得金額から扶養控除等の額を控除した後の月平均額によって算出される月収で、地域よって異なります
ざっくりと計算すると、大卒の初任給程度が入居基準となることが多いようです
高齢者や外国人など、収入はあるものの民間住宅が受け入れない住宅困窮者は、政令月収額を超えてしまうと公営住宅には入居できません
また、政令月収額を数か月超えてしまうと退去させられるため、働く意欲を下げる要因にもなっています
核家族化を助長
公営住宅の入居基準は、世帯の収入(政令月収額)により入居基準が定められています
世帯の人数により、入居基準となる政令月収額は変わるのですが、それなりに収入のある人が1人いると入居は厳しくなる場合がほとんどです
そのため、高齢の親と同居したいと思っても、子の収入が政令月収額を超えると、入居できません
このことにより、世帯を分けて入居する人が増え、核家族化を助長しています
供給量に対する需要の少なさ
公営住宅の政令月収額の基準では、全世帯のおおよそ25%程度は公営住宅に入居可能となっています
一方、日本の世帯数は5340万戸に対し、公営住宅は全国に216万戸と4%程度しかありません
つまり、明らかに供給量が少なく、そのため抽選で入居者を選ぶという不公平なシステムとなっています
一度、入居できればその利益をずっと享受でき、入居できない人は困窮し続けることになります。抽選で対象が決まる福祉政策は、他にはないのではないでしょうか
また、供給量が少ないために、住みたい場所や環境を選ぶことが困難になります
例えば、子供が住んでいる近くに住みたい、パート先の近くに住みたいと言った希望も通りにくくなります
ホームレスは入れない
そもそも住宅困窮者としてまず思い浮かぶのは、ホームレスではないでしょうか
ホームレスは、間違いなく住宅に困窮しています。しかし、住民票がなければそもそも公営住宅には入れません
ホームレスが公営住宅に入居するには、まずどこか別の住宅を借りて、そこから公営住宅に申し込みをする必要があります
非効率な設計と安すぎる家賃
公営住宅は非常にゆとりのある設計となっています
1人世帯の最低居住面積は25㎡と定められていますが、公営住宅の一番小さい部屋でも35~40㎡程度と大きめに作られています
また、市街地にある公営住宅であっても、敷地に余裕を持たせて設計されており、容積率を大きく余らせています。周辺環境への配慮を行っているのでしょうが、民間マンションではありえない考え方です
また、公営住宅の家賃は、近隣同種家賃から世帯の政令月収額に応じて割引を行って算出されます
しかし、この近隣同種家賃が近隣の家賃よりかなり低く設定されています
建て替えのタイミングで家賃補助に移行すべき
公平な方法は家賃補助のみ
では、公営住宅政策をどのように転換していけば良いのでしょうか
それは、建て替えのタイミングで家賃補助に移行するしかありません
現在は、居住者の権利はとても強くなっていますので、いきなり出て行ってもらう訳には行きません。そもそも住宅困窮者が住んでいるのですから、いきなり出て行ってくださいと言えないのは当然です
平等なシステムにするには、直接住宅を供給するのではなく、間接的に家賃を補助する以外に公平な方法はありません
家賃補助の良い点
入居者の選択肢が広がる
古くても大きい部屋、小さくてもバリアフリーな部屋、日当たりが悪くても駅近が良いなど、入居者の選択肢が大きく広がります
例えば、子供が住んでいる近くに住みたい、パート先の近くに住みたいと言った希望も叶えることができます
公営住宅はペット禁止としている住宅がほとんどですが、高齢者になってペットと住みたいと思われる人はペット可の住宅に住むこともできます
民間住宅の質の確保
公営住宅を家賃補助に移行した場合、補助する住宅の質を担保する必要があります
そのため、一定以上の質を担保した住宅を対象に家賃補助を行うシステムとする必要があるため、逆説的ではありますが、家賃補助の対象となるためには、民間側も一定以上の質を担保した住宅を整備することが想定されます
家賃補助の問題点
財政支出
全世帯の25%程度は公営住宅に入居可能だとすると、家賃補助対象者は世帯の25%になります
また、日本の全世帯数公営住宅の戸数に対し、公営住宅は4%しかないことを考えると、単純計算で財政支出は25%÷4%=6倍以上となります
そんなお金がどこにあるか!と思われるかもしれませんが、それはこれまで抽選で外れた人たちが損している金額です
繰り返しますが、抽選で対象が決まる政策は、間違っています
民間賃貸の貸し渋り
高齢者や外国人など、民間賃貸オーナーが貸し渋る可能性があります。これは公営が直営で運営したときには発生しない問題です
この解決方法は簡単で、貸し渋りをしない住宅限定で家賃補助を出せばよいのです
最後に
最後までご覧いただきありがとうございます
今回は、公営住宅政策について筆者の意見を書かせていただきました
これらの政策を考えるのは、政治家や行政職員の仕事ですが、良ければ公営住宅という政策についても、気に留めて頂けると幸いです
また、不公平なシステムではありますが、利用できる方は利用しない手はありません
希望の公営住宅があれば、抽選に参加してみましょう
ご質問も随時、下記のコメント欄よりお待ちしております
本日もありがとうございました!
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