自宅は購入か?賃貸か?前提となる考え方
自宅を購入すべきか、賃貸に住み続けるべきかは永遠のテーマと言われています
それは費用面だけでなく、そこに住む人の気持ちや夢なども関わってくるため、一概に言うことができないからです
しかし、費用を無視することはできません
そこで、本記事では、自宅は購入するのが良いか、賃貸を借りるのが良いかについて、費用面で徹底比較をしていきます
費用面以外での比較については、こちらの記事をご覧ください
比べるべきは「自分で住む」vs「誰かに貸す」
様々な本やサイトで、購入vs賃貸の比較がされています
よくある比較としては、
- 4000万円の家を購入、毎月ローン支払い12万円×35年
- 家賃が14万円の賃貸住宅
どちらがお得でしょうか?といった比較となります
この比較をする上で、最も難しい点は1.と2.の住宅が同等なのか判断できないということです
世の中に、全く同じ条件の住宅はないからね
また、この比較の場合、購入した場合の金額に、固定資産税や都市計画税、修理費も計上しなければなりません。これが計算をさらに複雑にしています
しかし、元を辿ればこれらの金額は誰が負担しているのでしょうか?
不動産投資家の収入は、住む人の家賃です
購入の場合に必要な費用はほとんどが、家賃という見えない形で支払っているのです
購入した住宅であれ、賃貸住宅であれ、家は誰かが購入しています。その家にあなたが「自分で住む」のか、不動産投資家として「誰かに貸す」のかを比較すると、これまでの見えてこなかった部分が見えてきます
この記事では、購入した家に「自分で住む」場合のメリットを青色、「誰かに貸す」場合のメリットを赤色で着色して説明します
購入の費用計算:リベ大「真実の家賃」の計算とは
今回は、リベラルアーツ大学の「【真実の家賃】持ち家派が信じる「家賃を払い続けるよりもおトク」の落とし穴を解説」の記事と条件を合わせて比較をさせていただきます
この記事では、新築一戸建ての住宅を購入し、10年後に売却した場合の総費用を計算し、居住月数で割った費用を「真実の家賃」と定義し、賃貸の家賃と比較しようという趣旨です
とてもわかりやすい記事ですので、是非ご覧ください
上記の条件でシミュレーションした結果は以下のとおりとなります
項目名 | (1)購入した場合の金額 |
---|---|
A.頭金 | 0.0 |
B.購入手数料 | 238.8 |
初期費用(A~B合計) | 238.8 |
C.ローン返済額 | 1272.0 |
D.固定資産税 | 150.0 |
E.住宅ローン控除 | -341.0 |
I.修繕費 | 0.0 |
ランニングコスト(C~I合計) | 1081.0 |
K.ローン残債 | 2933.7 |
L.売却諸費用 | 149.4 |
清算費用(K~L合計) | 3083.1 |
①総キャッシュアウト | 4402.9 |
M.売却額 | 2987.0 |
N.不動産 譲渡所得課税 | 0.0 |
②総キャッシュイン | 2987.0 |
②キャッシュイン-①キャッシュアウト | -1415.9 |
③居住月数 | 120.0 |
真実の家賃(②ー①)÷③ | -11.80 |
一部、元記事から加筆させていただいています。なお、念のため筆者でも再計算を行いました
(アルファベットが飛んでいるのが気になりますよね?後ほど解説します)
それでは、簡単に各項目を見ていきましょう
A.頭金:今回は頭金は0と想定します
B.購入手数料:住宅を購入する際は、印紙税、不動産取得税、登記費用、融資事務手数料、ローン保証料、火災保険料、不動産会社への手数料などが必要となります。ここでは購入価格の6%と想定します
C.ローン返済額:借入金額3,980万円、ローン期間35年、変動金利0.65%の場合の月々の支払額は105,974円となり、10年間で1272万円となります
D.固定資産税:物件ごとに異なるため、今回は10年平均で15万円、合計150万円とします
E.住宅ローン控除:住宅ローン控除制度により、年末の住宅ローン残高×1%に相当する税金を取り戻せます。計算すると、10年間の税金還付は合計約341万円となります(ただし、2021年11月現在、制度の見直しが検討されています)
I.修繕費:今回購入する住宅は新築のため、10年間の修繕費は0と想定します
K.ローン残債:10年後のローン残債は、約2,933.7万円となります
L.売却諸費用:売却額の5%と想定します
①総キャッシュアウト:上記A~Lを合計したものが、トータルの支出(総キャッシュアウト)となります
M.売却額:売却額は、不動産ウェブサービスである「ウチノカチ」より想定し、10年後の売却額を2,987万円とします
N.不動産 譲渡所得課税:土地や建物を売却した際に発生する税金です。結論としては、今回は課税されません(課税される場合はマイナスで計上します)
②総キャッシュイン :上記M~Nを合計したものが、トータルの収入(総キャッシュイン)となります
③居住月数:10年後(120か月後)に売却する想定とします
この結果、総キャッシュインから総キャッシュアウトを引き、居住月数で割ったもの(=真実の家賃)は、11.8万円と算出されます
賃貸の費用計算:不動産投資家から見た家賃とは
では次に不動産投資家が、この家を誰かに貸す場合の費用を計算していきます
先ほどの前提条件から、下線部の条件を追加・変更しています
上記の条件でシミュレーションした結果は以下のとおりとなります
項目名 | (2)賃貸として貸した場合の金額 |
---|---|
A.頭金 | 0.0 |
B.購入手数料 | 238.8 |
初期費用(A~B合計) | 238.8 |
C.ローン返済額 | 1462.3 |
D.固定資産税 | 150.0 |
E.住宅ローン控除 還付 | 0.0 |
F.減価償却費の経費参入 | -259.1 |
G.ローン金利の経費算入 | -132.3 |
H.固定資産税の経費参入 | -37.5 |
I.修繕費 | 0.0 |
ランニングコスト(C~I合計) | 1183.4 |
K.ローン残債 | 3047.0 |
L.売却諸費用 | 149.4 |
清算費用(K~L合計) | 3196.4 |
①総キャッシュアウト | 4618.6 |
M.売却額 | 2987.0 |
N.不動産 譲渡所得課税 | 0.0 |
②総キャッシュイン | 2987.0 |
②キャッシュイン-①キャッシュアウト | -1631.6 |
③居住月数 | 120.0 |
真実の家賃(②ー①)÷③ | -13.60 |
先ほどと同じく、簡単に各項目を見ていきましょう
A.頭金:購入した場合と同じく、頭金は0と想定します
B.購入手数料:住宅を購入する際の手数料は、賃貸に出す場合でも自分で住む場合でも変わりません。購入価格の6%と想定します
C.ローン返済額:借入金額3,980万円、ローン期間35年、変動金利1.5%の場合の月々の支払額は121,861円となり、10年間で1462.3万円となります。住宅ローンと比べ、事業用ローンは金利が高くなります
D.固定資産税:購入して自分で住む場合と変わらず、10年平均で15万円、合計150万円とします
E.住宅ローン控除:賃貸に出す場合は住宅ローン控除は使用できませんので、0円となります
F.減価償却費の経費参入:購入して自分で住む場合には出現しなかった項目です。不動産投資では、建物の年数が経過するごとに減価償却として、一定額を経費として参入することができます。経費として参入することで、不動産投資の利益や、その他給与所得にも損益通算ができるようになりますので、結果的に節税となります。今回は不動産投資家の所得税と住民税の合計の税率が25%であったとして、節税分を利益(計算上はマイナス)として計上します
G.ローン金利の経費算入:ローンの金利も同様に経費として参入できます。F.と同じく節税できる税率は25%とします
H.固定資産税の経費参入 :固定資産税も同様に経費として参入できます。建物は木造のため22年、設備は15年の定額法で減価償却するものとします。F.と同じく節税できる税率は25%とします
I.修繕費:今回購入する住宅は新築のため、10年間の修繕費は0と想定します
K.ローン残債:10年後のローン残債は、約3047万円となります
L.売却諸費用:購入して自分で住む場合と変わらない想定とします
①総キャッシュアウト:上記A~Lを合計したものが、トータルの支出(総キャッシュアウト)となります
M.売却額:売却額は先ほどと同様に、不動産ウェブサービスである「ウチノカチ」より想定し、10年後の売却額を2,987万円とします
N.不動産 譲渡所得課税:土地や建物を売却した際に発生する税金です。結論としては、今回も課税されません(課税される場合はマイナスで計上します)
②総キャッシュイン :上記M~Nを合計したものが、トータルの収入(総キャッシュイン)となります
③居住月数:10年後(120か月後)に売却する想定とします
この結果、不動産投資家がこの住宅を貸し出す場合の設定家賃は、13.6万円と算出されます
しかし、13.6万円で貸し出すと不動産投資家の利益がありませんので、実際は不動産投資家の利益分が家賃として上乗せされます
さらに、これに加えて、管理を委託する場合は別途管理費、空室になった場合や災害で建物が被害を受けるリスクの安全料(リスクプレミアム)が上乗せされることになります
不動産投資家の利益・管理費・リスクプレミアムは、不動産投資家の考え方次第で、計算することが困難なため、省略して比較しています
結論:購入vs賃貸 費用比較
結論:購入が有利
それでは、購入と賃貸の費用を比較していきましょう
項目名 | (1)購入 | (2)賃貸 | 差額(2)-(1) |
---|---|---|---|
A.頭金 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
B.購入手数料 | 238.8 | 238.8 | 0.0 |
初期費用(A~B合計) | 238.8 | 238.8 | 0.0 |
C.ローン返済額 | 1272.0 | 1462.3 | -190.3 |
D.固定資産税 | 150.0 | 150.0 | 0.0 |
E.住宅ローン控除 還付 | -341.0 | 0.0 | -341.0 |
F.減価償却費の経費参入 | 0.0 | -259.1 | 259.1 |
G.ローン金利の経費算入 | 0.0 | -132.3 | 132.3 |
H.固定資産税の経費参入 | 0.0 | -37.5 | 37.5 |
I.修繕費 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
ランニングコスト(C~J合計) | 1081.0 | 1183.4 | -102.4 |
K.ローン残債 | 2933.7 | 3047.0 | -113.3 |
L.売却諸費用 | 149.4 | 149.4 | 0.0 |
清算費用(K~L合計) | 3083.1 | 3196.4 | -113.3 |
①総キャッシュアウト | 4402.9 | 4618.6 | -215.7 |
L.売却額 | 2987.0 | 2987.0 | 0.0 |
M.不動産 譲渡所得課税 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
②総キャッシュイン | 2987.0 | 2987.0 | 0.0 |
②キャッシュイン-①キャッシュアウト | -1415.9 | -1631.6 | 215.7 |
③居住月数 | 120.0 | 120.0 | 0.0 |
真実の家賃(②ー①)÷③ | -11.80 | -13.60 | 1.8 |
購入した場合の真実の家賃が11.8万円なのに対し、実際に賃貸を借りた場合の家賃は13.6万円となり、購入した方が毎月1.8万円お得であるとの結論になりました
賃貸の場合は、不動産オーナーの利益や管理費、リスクプレミアムがさらに上乗せされますので、差はさらに広がります
では、どのようなポイントで金額差が生じているか見ていきましょう
ポイント①:ローン返済額・ローン残債の違い
住宅ローンの金利は、非常に優遇されています。一般的に住宅ローンは事業用ローンと比べ、貸し倒れの可能性が低く、フラット35など政府が住宅ローンを後押ししているためです
これは、購入して自分で住む場合の大きなメリットです
ポイント②:住宅ローン控除制度
住宅ローン控除制度は、年末の住宅ローン残高×1%に相当する税金を取り戻せますので、購入して自分で住む場合は非常に大きなメリットです。賃貸に出す場合には利用できません
今回の場合は、10年間の税金還付は合計約341万円にもなります
ポイント③:減価償却費、ローン金利、固定資産税、修繕費の経費算入
一方、減価償却費、ローンの金利、固定資産税、(今回は計上していませんが)修繕費を経費に算入できるのは、不動産投資家の大きなメリットです
購入して自分で住む場合は、税引き後の手持ち資金からローン金利、固定資産税、修繕費を支出しなければならないのに対し、不動産投資家はこれらを経費として計上できるため、支出額に税率を掛けた金額が節税となります
これは、賃貸として借りる場合でも間接的にメリットとなります
20年で比較した場合
それでは、ここまで10年で比較していましたが、20年とした場合についても見ていきましょう
項目名 | (1)購入 | (2)賃貸 | 差額(2)-(1) |
---|---|---|---|
A.頭金 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
B.購入手数料 | 238.8 | 238.8 | 0.0 |
初期費用(A~B合計) | 238.8 | 238.8 | 0.0 |
C.ローン返済額 | 2543.0 | 2925.0 | -382.0 |
D.固定資産税 | 300.0 | 300.0 | 0.0 |
E.住宅ローン控除 還付 | -341.0 | 0.0 | -341.0 |
F.減価償却費の経費参入 | 0.0 | -468.2 | 468.2 |
G.ローン金利の経費算入 | 0.0 | -227.0 | 227.0 |
H.固定資産税の経費参入 | 0.0 | -75.0 | 75.0 |
I.修繕費 | 240.0 | 240.0 | 0.0 |
J.修繕費の経費算入 | 0.0 | -60.0 | 60.0 |
ランニングコスト(C~J合計) | 2742.0 | 2634.9 | 107.1 |
K.ローン残債 | 1817.1 | 1963.1 | -146.0 |
L.売却諸費用 | 137.1 | 137.1 | 0.0 |
清算費用(K~L合計) | 1954.2 | 2100.2 | -146.0 |
①総キャッシュアウト | 4935.0 | 4973.9 | -38.9 |
M.売却額 | 2507.4 | 2507.4 | 0.0 |
N.不動産 譲渡所得課税 | 0.0 | -32.3 | 32.3 |
②総キャッシュイン | 2507.4 | 2475.1 | 32.3 |
②キャッシュイン-①キャッシュアウト | -2427.6 | -2498.7 | 71.1 |
③居住月数 | 240.0 | 240.0 | 0.0 |
真実の家賃(②ー①)÷③ | -10.1 | -10.4 | 0.3 |
20年の場合も、基本的な考え方は10年の場合と同じです。違うポイントだけを見ていきましょう
E.住宅ローン控除:住宅ローン控除は、住宅の性能等の条件によって10年または13年間税金の還付を受けることができます。今回は10年として計算しますので、10年間のシミュレーションと金額は同じとなります
I.修繕費:20年間の修繕費は240万円と想定します
J.修繕費の経費算入:不動産投資では、修繕費も経費として参入できます。今回は節税できる税率は25%であったとして、節税分を利益(計算上はマイナス)として計上します
N.不動産 譲渡所得課税:土地や建物を売却した際に発生する税金です。
マイホーム(居住用財産)を売ったときは、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例がありますが、事業用(賃貸用の住宅)の場合は特例がありません
そのため、今回の(2)賃貸として貸し出す場合は、32.3万円の譲渡所得課税を支払うことになります(課税される場合はマイナスで計上します)
購入した場合の真実の家賃が10.1万円なのに対し、実際に賃貸を借りた場合の家賃は10.4万円となり、購入した方が毎月0.3万円お得であるとの結論になりました
10年間の比較より差が小さくなっているのは、
- 住宅ローン控除の期間が終了したため、購入した場合の節税効果が小さくなった
- 修繕費を経費計上できる賃貸の場合の節税効果が大きくなった
というところがポイントとなっています
しかし繰り返しになりますが、賃貸の場合は、不動産オーナーの利益や管理費、リスクプレミアムがさらに上乗せされますので、購入した場合が有利なことに変わりはありません
まとめ
最後までご覧いただきありがとうございます
不動産投資家の目線から、購入した場合と賃貸の場合の費用比較を行うと、様々な制度の違いや事情が見えてきたのではないでしょうか
ポイントをまとめると、次のとおりです
〈購入する場合のメリット〉
- 住宅ローンの金利が有利
- 住宅ローン控除が使える
- 売却時の不動産譲渡課税が有利
- 不動産オーナーの利益や管理費、リスクプレミアムが上乗せされない
〈賃貸のメリット〉
- 減価償却費、ローンの金利、固定資産税、修繕費を経費に算入できるため、節税になる
そして、上記以外の項目は、購入した場合でも賃貸の場合でも差はありません
繰り返しになりますが、費用以外の面も重要ですので、総合的にあなたのお住まいについて考えていただければ幸いです
この記事が少しでも参考になれば幸いです
本日もありがとうございました!
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